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地域事例 海外

2020.11.27

旅の感動を伝える観光映像「Italia」

私が主催する日本国際観光映像祭は2019年に立ち上がった、東アジア唯一のCIFFT加盟映像祭です。CIFFTは世界の17の国際観光映像祭から構成される映像祭ネットワークで、お互いが協力関係を結びながら観光映像の影響力を高めています。その手段の一つとしてCIFFTサーキットがあります。これは各映像祭で受賞した賞に応じて観光映像がポイントを獲得し、すべての映像祭が終了したときに最もポイントが高いものが世界一の観光映像として認証され、世界で大きくメディアに取り上げられる仕組みです。このランキングは6部門で認定されます。毎年、状況に応じて部門カテゴリーは修正されていくのですが、現在の6部門は以下の通りです。

「Tourism Destinations Cities (観光誘客・都市部門)」 「Tourism Destinations Regions (観光誘客・地方部門)」 「Tourism Destinations Countries (観光誘客・国部門)」 「Tourism Services(観光サービス部門)」 「Tourism Product(観光商品部門)」 「Independent Travel Video(独立系旅映像部門)」

数年前まではスポーツツーリズムやガストロノミーなども一つの部門だったのですが、今は整理されています。たとえばホテルや航空会社、クルーズツアーなどを紹介する映像は観光サービス部門になります。スポーツツーリズムやガストロノミー、エコツーリズムなどは観光商品部門です。そして2019年から新たに「Independent Travel Video」部門が置かれました。

Independent Travel Videoはクライアントの発注によって作られた映像ではなく、映像作家主体で作られた映像で、Youtuberや他のSNSのインフルエンサーの映像、日本であれば最近若者たちの間で広がっているVlogもこの部門での審査となります。

ただ、そこは日本と海外とでは少し異なる部分もあります。どちらかといえば、日本のYoutuberが面白さや新規性、何よりも話題性で人気を得ているのに対して、世界で評価されているIndependent Travel Videoはその映像の質が最も重要な要素となっています。なぜならば話題性が国境を超えて届くことは稀であり、国境や文化の壁を超える映像は映像美なのです。

第2回日本国際観光映像祭のIndependent Travel Video部門で最優秀作品となったのは「Italia」でした。これはイタリアの映像製作チームWow Tapesのメンバーが自費でイタリア全土を2ヶ月にわたって旅し、その旅の映像を自主制作でまとめたものです。この映像はIndependent Travel Video部門最優秀作品賞をとり、さらに日本国際観光映像祭が世界に発信する最優秀作品となるグランプリ作品に選ばれました。

これは世界の観光映像祭にも見られるトレンドですが、世界的にFIT(個人旅行者)が主たる旅行者となっていることにも関連して、人間にとって「旅とは何か」に対する回答としての映像の評価が高まっています。この「Italia」もイタリアに誘客するという目的は持っていません。結果として誘客にはつながるとは思いますが、それよりも“イタリアとはなんだろうか?”という個人的な問いに真正面から向き合うことが彼らの映像の目的です。個人的な問いだからこそ、なおかつ実際に旅をしながらの表現だからこそ、強く伝わるなにかがあります。実は曲も彼らチームの手によるものです。彼らが感じた人々、自然、文化の美しさを余すところなく高らかに歌う叙情詩的な観光映像です。

自主制作観光映像は、クライアントが存在しないので、それぞれの地域の観光協会などが持つ観光戦略と連動することはありません。しかし、それらの映像は誘客につながらないでしょうか?私はつながると思います。旅、という感動を多くの人々に伝え、イタリアのイメージを鮮明に認識することによって、人はその場所に行きたくなる。そういう効果があると思います。そして、このような効果を検証することによって、実はクライアントが望む結果にこのような映像が結びつくかもしれない、といった次の時代の観光映像製作のヒントが得られることが大切です。

観光映像祭ではこのような観光映像自体の向上のためにIndependent Travel Video部門で作家性が強い映像も審査しています。日本でもVlogの発信もどんどんと広がっていますので、そのような映像の中から世界の観光映像祭でも受賞できるような作品が生まれてくることを期待しています。

「Italia」
https://vimeo.com/277905407

執筆者プロフィール

木川剛志

日本国際観光映像祭総合ディレクター
和歌山大学観光学部教授

1995 年京都工芸繊維大学造形工学科入学。在学時よりアジアの建築、特にジェフリー・バワに興味を持ち、卒業後はスリランカの設計事務所に勤務する。2002 年UCL バートレット大学院修了。2012 年に福井市出身の俳優、津田寛治を監督として起用した映画「カタラズのまちで」のプロデューサーをつとめたことから映画製作に関わるようになる。監督として2017 年に短編映画「替わり目」が第9 回商店街映画祭グランプリ、2020 年にドキュメンタリー「Yokosuka1953」がReykjavikVisions Film Festival 最優秀長編ドキュメンタリー映画賞、Vesuvius International Film Festivalにて最優秀ドキュメンタリー脚本賞などを受賞。観光映像では須藤カンジを監督に起用しプロデューサーと撮影をつとめた「Sound of Centro」がART&TUR 国際観光映像祭でポルトガル観光誘客(都市)部門最優秀作品賞。2019 年より日本国際観光映像祭実行委員会代表、総合ディレクターをつとめている。